世界の死因の7割に有効なデジタルPCR装置開発のクラウドファンディングに成功しました

株式会社鳥人間代表の久川と申します。このたび世界初のオープンソースなデジタルPCR装置「dNinja」の開発資金調達のためクラウドファンディングを実施し、合計$9,805の支援を頂きました。資金援助にご賛同頂ける場合は引き続きPayPalまたはPatreonで受け付けています。

Developing dNinja, an open-source digital PCR

プラットフォームが英語のみ対応していたため、以下に日本語訳を残します。


このプロジェクトについて

私達夫婦は10年以上、オープンソースのPCR装置を開発し続けています。2013年に第一世代のサーマルサイクラーNinjaPCRを開発し、2016年と2017年には超高速PCR装置を開発しました(動画1動画2)。コロナ禍の2020年から2023年の間に第二世代リアルタイムqPCR (RT-PCR)装置であるqNinjaを原材料費$220で、qLAMP装置を$45で開発しています。今回、第三世代デジタルPCR (dPCR)のdNinjaの開発資金を募集します。dPCRはqPCRの1,000倍の感度を持ち、リキッドバイオプシー (液体生検) と呼ばれる患者の負担を減らす診断手法で必要となる装置です。リキッドバイオプシーが有効な非感染性疾患は、2019年の世界の死亡原因の74%を占めています

私達が開発したリアルタイムPCR qNinja

この研究はなぜ行われるのですか?

PCR検査は最も感度が高いため、抗原・抗体検査で代替することができません。PCRは伝染性を獲得する前に検出できる唯一の方法です。qPCR/dPCR装置は、指定したDNAのコピーを蛍光性を持たせた上で何百万個も作成し、光センサで陽性か陰性かを即座に判定します。その簡便さからPCR検査では主にqPCR/dPCR装置が使用されており、私達はqPCRについては$220のqNinjaとしてオープンソース化に成功しました。dPCRは溶液を数万個の独立したスペースに分割してからqPCRを行うため、DNAの変異に対してqPCRの1,000倍の感度を持ちます。これはリキッドバイオプシーに必要な感度で、腫瘍から血管中に剥離したがん細胞のDNAといった極めて少ない変異を正確に計測することができます。患者は外科手術によって組織を切除することなく、10-20mlの血液を採取するだけで経過観察ができます。

このプロジェクトの意義は何ですか?

これは世界初の、オープンソースdPCRを作る挑戦です。私達のdNinjaは市場に既にあるどのdPCRと比べても、最も直感的に操作でき、劇的に安価になります。ほとんどの人がqPCRやdPCRを操作する機会がありませんが、それは単純に$20,000〜200,000 (280〜2,800万円)もするからであり、使用するのに一定のスキルの習得が必要となるからです。qPCRはほとんどの感染症を検出することができますが、世界の死因の74%は非伝染性疾患です。リキッドバイオプシーはその上位7つの死因について有効で (心疾患脳卒中肺疾患がんアルツハイマー糖尿病腎臓病) 、dPCRはそのために必要なツールです。

このプロジェクトのゴールは何ですか?

私達が既にPCRやqPCRで行ってきたように、適切にドキュメント化されたオープンソースのdPCR装置を作ることが今回のゴールです。具体的な実現方法ラボノートに記載した通り、まずマイクロスコープXYステージ、カスタムのはんだ付け用ステンシルを組み合わせます。学習させたDeep LearningモデルYOLOv8ByteTrackといったソフトウェアで、ステンシル上の極小の穴をトラッキングし、穴の中のqPCR溶液の色を陽性・陰性ごとにカウントします。既知のDNA濃度のカスタムDNAオリゴを発注し、ポアソン分布補正を行った算出DNA濃度と一致するか確認することで評価を行います。評価終了後、フルスクラッチで作成したい方向けのDIYガイドを用意します。dNinjaのキットや自作が難しい部品は、私達のオンラインストアで販売し、詳細な組み立てガイドをご用意します。

追加のゴールとしては、既にqPCRqLAMPで行っているように商用モデルを開発し、FDA医療機器認証の取得を目指します。

予算について

具体的な実現方法に記載の通り、様々な種類のはんだ付け用ステンシル、PCRプレート、XYステージを用意してマイクロスコープに接続する必要があります。頂いた予算は必要な機器や部品の購入に使用します。

BMSZ Stereomicroscope + Long arm stand マイクロスコープ$1,031
Raspberry Pi High-Quality Camera ラズベリーパイ用HQカメラ$61
Arducam CSI-USB UVC Camera Adapter カメラ画像をUSBで取り出せすためのアダプタ$63
BMS CCTV Adaptor マイクロスコープにカメラを接続するためのアダプタ$79
BMS x0.5 Additional Objective Lens 対物レンズ$82
BMS x20 Widefield Eyepieces 広角アイピース$53
Real 4K UHD 60FPS Microscope Camera HDMI対応マイクロスコープ$337
Custom Solder Stencils with 25k+ holes はんだ付け用ステンシルに関する費用一式$1,400
Custom PCB and Electric Parts for PCR PCRするために必要な電子基板や部品一式$1,500
Custom PCB and Electric Parts for XY stage XYステージのために必要な電子基板や部品一式$1,500
qPCR reagents including master-mix qPCRに必要な試薬一式$2,000
Thermofisher Microfluidic Array Plate 市販品マイクロアレイ$1,029
Deep Learning Training Cost on Cloud 穴をトラッキングするためのクラウド上での学習費$700
OpenFlexure Parts オープンソースなマイクロスコープOpenFlexureとの統合を検討するための費用一式$150
合計$9985

推薦

Dr Brian Degger

バイオエコノミーを実現するためには、研究用の機器を手頃な価格で入手することが不可欠です。デジタルPCRは、こうした技術の一つです。dNinjaは、他のオープンソースのPCR装置に携わってきた有能なチームであるShingoたちによって開発されています。

Valerio della Porta

デジタルPCRは核酸を正確に定量化することができる、次世代のPCR装置です。しかし、現在の科学用機器のサプライチェーン下では、コストが高いためにアクセスが制限されています。オープンソースのハードウェアは、コストを下げることでより多くの科学者が利用できるようにします。久川真吾と久川まり子は、PCRとqPCRの装置を誰もが買える値段に引き下げました。

プロジェクトのタイムライン

qPCRとqLAMPの技術実証機 (Proof of Concept) を作成するまで、400万円と3年が必要でした。dPCRも再び長い旅路となるでしょう。

最も重要なのは、はんだ付け用ステンシルがdPCRに使用できることを確認することです。私達は中国のレーザー加工会社と直接やり取りできるコネクションがあり、私達のqNinjaプラットフォームは最小限の工数でdNinjaに対応できます。

私達のソフトウェアおよびハードウェアエンジニアとしての経験により、技術実証機を開発するのに必要なDeep Learningを含むあらゆる作業を、外注することなく内製で完結できます。

2023年8月1. カスタム品のステンシルとマイクロスコープを発注する
2023年10月2. 熱試験を実施しても、ステンシルの穴の中の液体が維持される方法を見出す
2024年1月3a. Deep Learningモデルを適用し、穴をトラッキングして色情報を保存する
2024年4月3b. qNinjaのハードウェアをシンプル化し、ソフトウェアをdNinja用にカスタムする
2024年7月3c. ステッピングモーターとマイコンに接続してXYステージを作る
2024年11月4a. Webカメラ、PCR、XYステージをUSBまたはHDMIでコントローするDockerイメージを作成する
2025年2月4b. 集計した色情報を2次元グラフで表示し、溶液のDNA濃度を算出するプログラムを開発する
2025年4月4c. PCRとXYステージを1つのハードウェアに統合する
2025年7月5. 技術実証機 (Proof of Concept) を複数台試作し、協力してくれる第三者に評価を依頼する
2025年9月6. Dockerイメージを公開し、dNinjaをフルスクラッチで作成するための詳細な手順を共有する
2025年10月7. 追加ミッション : OpenFlexureを作成し、dNinjaのマイクロスコープとして使用できるか検討する
2025年12月8. 追加ミッション : 可能であればOpenFlexureをdNinjaに組み込む

チーム紹介

チームについて

私達は独立していて、結婚していて、日本人で、熟練のエンジニアで、トリックスターでもあります。私達の人工衛星ARアプリSpaceStationARのカスタム版ははやぶさ2のカプセル再突入時にJAXA回収班に使用されました。私達はオープンソースなガジェットからハードウェアを学んだので、今度は私達が貢献する番です。私達の$220のqPCR装置qNinja2022 Amazing Maker Awardsのトップテクニカルアワードに選出され、$45のqLAMP装置qNinjaLiteはウクライナや難民キャンプで水質検査に使用されます。2015年と2019年に生まれた2人の女の子を東京で育てています。

久川 真吾

寿司からPCRまでなんでも作るのが好き。東京大学在学中に人力飛行機を作成して飛ばした経験を持つ。世界各国のMaker Faireでスピーカーの経験あり。

主なスキル : PCB / 3D CAD / Linux / Webサービス / クラウド / AI

久川 まり子

レザークラフトからPCRまでなんでも作るのが好き。開発したかきかたプリントメーカーは世界中の日本語教育の現場で使用され、ユーザの人生を変えている。

主なスキル : 組み込み / アプリ / IoT / Webサービス / クラウド / AI

補足情報

ブレインストーミングやディスカッション、アップデートはTelegramで共有しています。

ファンディングサイトでBrianやValerioのようにご推薦いただける場合は、こちらのフォームからメールアドレスをお知らせください。後ほど招待メールをお送りします。


具体的な実現方法

概要

dPCRで最も重要なのは、個別にPCRするためにどのようにしてqPCR溶液を数万もの独立した空間に分けるかです。主に2通りの方法があり、いずれも家庭で行うのは現実的ではないと思われるでしょう。

ドロプレットデジタルPCR (ddPCR)は、こちらの動画のように油やポンプ、マイクロ流体プレートを使って溶液をナノリットルサイズの液滴 (ドロプレット) にします。そのため全体のシステムは複雑になりがちです。バイオラッド社のddPCRの動画をご覧ください。

チップベースデジタルPCRは数十ミクロンサイズで加工されたポケットがあるマイクロ流体チップに溶液を流し込みます。サーモフィッシャー社の$1,000する再利用不可のマイクロアレイプレートをご覧ください。このようなプレートの試作見積もりを取ったところ、こちらの回答が届きました。

“0.2mm(=200ミクロン)より小さいギャップ、または0.1mmより小さい半径のあるマイクロ流体チップを作成する場合、LIGAという技術を使用します。その際ツールのコストは15,000〜20,000ユーロ(226〜300万円)です。このような小さな形状の試作にはガラスを使用し、最小発注金額1,000〜5,000ユーロ(15〜75万円)で数個作成します。”

そこで私達は、電子基板の実装に使用されているはんだ付け用ステンシルをチップベースデジタルPCRに使用することを思いつきました。ステンシルは今日では簡単にオンラインで発注でき、例えばJLCPCBは$7で24時間以内に作成してくれます。ICチップが小さくなるにつれ、ステンシルに開けられる穴の最小径は小さくなっており、現在1mil=25.4ミクロンです。これはdPCRのチップとしては十分で、丈夫なステンレス鋼でできていることから再利用も可能と考えています。

電子基板作業者向けのマイクロスコープの解像度も上がっています。こちらのマイクロスコープの1ピクセルは1.55×1.55ミクロンで、オートフォーカスの4K画像を60FPSで撮影できます。これはDeep Learningモデルでトラッキングするには十分です。こちらのBrianの素晴らしい動画を見た後では、1mil=25.4ミクロンはとても大きく感じることでしょう。

PCR装置、XYステージ、ソフトウェアは私達にとっては難しいものではありません。そのためこれらを組み合わせることで、私達ならdPCRを作れると考えています。既にこちらのDeep LearningモデルYOLOv8ByteTrackのアルゴリズムでドロプレットの動画に適用したところ、完璧に動作しました。ラボノートでシステム全体のイメージ図をご確認ください。

課題

ステンシルの穴に入ったqPCR溶液に対するPCR熱試験が私達にとって最大のチャレンジです。温度は室温から98度まで変化し、蒸発を防ぐためオイルやカバーガラスを置く必要があると考えています。気圧をコントロールする必要がないことを願っていますが、もし必要であれば必要なツールを開発します。

事前の分析

ステンシルの穴にターゲットとなるDNAが含まれている場合、qPCR溶液の色は鮮やかな蛍光色に変わります。これはカメラの映像で明確に確認できるため、私達がqNinjaで開発した高感度の光センサと増幅回路はdNinjaでは不要です。当初はフルオレセインナトリムを染料として使用し、成功した後に濃度既知のカスタムDNAオリゴを発注して計測します。


ラボノート

日本語訳は以上です。ご支援のご検討よろしくお願いいたします。よろしければSNS等でのシェアにご協力ください。